遠近法

遠近法(perspective)の背景

  絵画は2次元平面に空間を知覚させる技術とも言えます。いろいろな空間作りの工夫を広い意味での遠近法とみなして、光学や重力、数学などの自然科学の視点から遠近法の背景について考えてみました。

遠近法内容光学・重力・その他
空気遠近法遠くの景色はぼやけ、青白く見える空気層による光の吸収と散乱
線遠近法画面の中に消失点を取り奥行きを作る球面幾何学
平行線は2点で交わる
色彩遠近法寒色は後退色、暖色は進出色 重色でも遠近感がでる光の色(波長)から受ける心理的作用 音と同様に重色も元の色(波長)に分解(フーリエ変換)できる
大小遠近法近くのものは大きく、遠くのものは小さく見える両眼視差
3D立体視右と左の2つの眼で見た像を脳内で合成して奥行きを知覚する両眼視差
重畳遠近法手前のものは後ろのものの一部を隠す。光の直進、吸収、反射
虚像虚空間は実空間と重なり不安感や違和感が生れる虚像は画面の手前側にある空間の前後反転写像
陰影法ものの立体感や質感(肌触り)を陰影で表現する光の直進、反射、回折、散乱
上下遠近法風景画の描写では、遠くのものは上方に、近くのものは下方になる下方は重力の向き
通常、光は上方(遠く)から下方(近く、重力の向き)に射す
逆遠近法消失点を画面の前方にとることで、前方に奥行きを作って、絵の中に入ったような空間感覚を起こさせる球面幾何学
平行線は2点で交わる
フラクタル同じ図形の繰り返し(自己相似図形)により独特な空間感覚が生れるフラクタル幾何学 フラクタル次元は非整数の次元を持つ
多視点法対象を複数の視点から見て、対象を解体し、再構成する写真の多重露光と似る 意図的に不安感や違和感を起こさせる
マチエール画面を凸凹やツルツルの絵肌にすることで、浅い遠近感を生み出す細かい凸凹による陰影と触覚的(肌ざわり感)効果

逆遠近法

デイヴィッド・ホックニー   
大きなインテリア、ロサンゼルス 1988

  東京都現代美術館で「デイヴィッド・ホックニー展」が開催されました。F60キャンバス50枚の縦4.6m×横12.9mの巨大な林や全長90mのエンドレスな作品は衝撃でした。日常の室内風景を〈内側から〉鑑賞するための逆遠近法と多視点法を使った鮮明でポップな作品は魅力的でした。

  ホックニーは70年代中頃からオペラの舞台美術も手掛け、鑑賞者が作品空間に入り込めるようにするための「遠近法」を考えます。西洋で確立されてきた一点透視図法とは異なる遠近表現を用いることで空間が面白くなり、観客を作品の中に引き込むことができるということを認識しました。ホックニーが1983年から制作したフォトコラージュの作品にもそれは見られます。一点透視図法でカメラを覗くと人間は絵の中には入れないが、多くの視点をもってそれを行えば人間は空間にひきこまれる。「空間のなかでの見る人になるんです」と言います。

  透視図法では、消失点は画面の上方(後方)にあります。消失点を画面下方(前方)の手前の鑑賞者側に移動させると逆遠近法になります。絵を外から眺めるのではなく、鑑賞者が絵の中に入り込んで、絵の中の室内を歩きながら絵を鑑賞しているような感覚が逆遠近法によって生じるようです。ルネサンス以前や日本の大和絵では逆遠近法が普通に使われていました。現代の透視図法が世界を〈外から〉見る知覚であるのに対し、中世までは、世界を〈内側から〉見る知覚だったようです。

格子と3D

2022Lattice M300

  「2022 Lattice」は、初めてのM300号の大作です。展示会場を歩きながら、少し離れた位置からぼんやり眺めていると、ガラスの存在感が突然に現れて、立体感が増すことに気づきました。

  立体感は脳内での総合的な知覚だと言われます。絵画の遠近法(パースペクティブ)には線遠近法や空気遠近法などがありますが、人間には目が2つあることから、両眼視差による立体視があります。立体視の視覚は、3次元ではなく、2次元の視覚に奥行きの情報を加えた2.5次元の知覚とも言われます。

  ガラスがリアルに見えたのは、焦点が定まらずにぼんやりと見ることにより、縦の格子による3D効果によって両眼視差の立体的な知覚が強く現れたからだと考えています。