マグリットと幾何学
ルネ・マグリット(ベルギー1898~1967)は、「絵画は思考の技術である」と言っています。熊谷守一(1880~1977)も次のように言っています。
「芸術は科学的基礎づけをもつ」
「絵はものの見方であり、考え方である」
マグリットは、絵画は思考によって成立することを示しました。多くの作品の中で、時間、空間、モノなどの「置き換え」を巧妙に取り入れています。モノを本来あるべきところから別の場所に置く(デペイズマンの表現法)ことで違和感が生まれます。「置き換え」をモノ以外にも拡張することで、不思議な感覚が生れるマグリットの秘密が見えてくるように思います。思い付きの段階ですが、絵の中の「置き換え」探しをしてみました。

「デカルコマニー」
モノの場所(人物、カーテン、青空)の置き換え

「ゴルコンダ」
人の行動空間(2次元、3次元)の置き換え

「白紙委任状」
モノ(馬、人、木)の前後の置き換え

「光の帝国」
時間(昼、夜)の置き換え

「複製禁止」
鏡映(3次元の前後の反転)の二重の置き換え

「ピレネーの城」
重力(生成、消失)の置き換え

「リスニング・ルーム」
モノの大小の置き換え

「偽りの鏡」
映すモノ(網膜)と映されるモノ(青空)との置き換え

「大家族」
内(鳥)と外(空)の置き換え

「大きな食卓」
有機物と無機物との置き換え

「これはリンゴではない」
言葉(概念)の置き換え

「人間の条件」
虚構(絵)と現実(外の風景)の置き換え

「セルフポートレート」
原因と結果の置き換え

「赤いモデル」
包むモノと包まれるモノとの置き換え
広い意味の「置き換え」を「写像」と考えれば、「幾何学的構造」を持つ絵画表現と言えそうです。熊谷守一の科学的基礎づけも明確になります。マグリットの謎を秘めた奇妙で不思議な「絵画空間」は、「写像」の合成として理解することができそうです。マグリットの世界はルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」や「鏡の国のアリス」の世界とも共鳴しているように思います。
エッシャーと幾何学
幾何学と切り離せないのがマグリットと同年生まれのエッシャー(オランダ1898~1972)です。イスラム建築の装飾模様にヒントを得た循環と変容(メタモルフォーゼ)の作品はよく知られています。幾何学模様が魚や鳥に変わり、視点を変えることで別のものが見えてきます。計算されたトリックによってだまされる快感が魅力です。写像を利用して次元を変えたり、現実にあり得ない不思議な構造物を描いています。メビウスの輪などの位相幾何学的な表現も有名です。「北日本新聞140周年記念エッシャー不思議のヒミツ」(富山県美術館:2024年4月27日~6月30日)の体験型の展示は新鮮でした。

