スキー

雪と重力

  冬の楽しみに時々スキー場に出かけています。年齢と共に筋力も反射神経も衰えたので、短くて柔らかくて軽い板を愛用しています。雪原をウオーキングするように雪景色と雪の感触を楽しみたいと思っています。安全第一で、筋力に頼らないスローなスキー運動を心掛けています。物覚えが悪いので、いつもインストラクターから指摘される基本的な運動要素を自分なりに書き留めてみました。あくまでも個人的備忘録であることをお断りしておきます。

1.重力とターン

  スキーは、雪からの抗力を利用してスピードをコントロールしながら重力による落下を楽しむスポーツです。力学的には、一様な重力(保存力)場での束縛運動とみなせるので、摩擦がないときのスピードは経路(シュプール)によらず落差だけで決まる。スキーのズレは雪面からの抗力(摩擦)を生じるので、ズレを利用してスピードをコントロールする。谷回りは制動が難しいので、ズレを使ってスピードをおさえる。谷回りから制動することで山回りの制動が楽になります。

  切り替えでは、両脚のねじれを解放することでスキーの向きを変える。ねじれを戻すとき、意識的に内脚の外旋を外脚の内旋より先行させると、内脚の動きに同調して外脚が動くので、両スキーは平行に自然にフォールラインを向く。内脚先行は外脚の膝が内側に入るX脚の回避にもなります。

  谷回りは、切り替え時のスピードを生かして雪面からの圧をもらいながらスキーの先をフォールラインに向けて、外脚のエッジングと同調して内脚のテールも横に押し出すようにエッジングする。スピードがあるので角付けが強くなり、スキーもたわんで、スキーのトップが回転の内側に入ってくるカービングになります。速度を大きく、円孤を小さくすることで向心力(遠心力)が大きくなり、内傾が強まってエッジングが早く強くなりスキーコントロールも安定する。

  できるだけ谷回りで減速(スキッド)して、山回りで加速(カービング)することでターンの後半でのスキーのズレを少なくする。ターンの曲率を滑りの中で変化させてメリハリをつける。谷回りは時間の短い”つ”、山回りは時間の長い”し”の運動を意識して、”つ”から”し”につながる連続運動で一つのターンをつくる。

2.前傾

  前傾は、脛だけを前に押し出したり体軸だけを前方に傾けるのではなく、股関節から上体を前に倒す。背筋を伸ばし、足首の緊張を保って脛は常に靴のベロから離れないように意識する。斜度に合わせて前傾することで雪を押す力がフワッと抜けないようになる。

3.ニュートラル

  ニュートラルポジションは、山回りを仕上げたときのポジション。スキーを斜面にフラットにして、エッジがはずれた左右どちらにも回旋しやすい状態を作る。常に体の重心はスキーの真上にある。

  スキーヤーの外向傾が最大(身体のねじれ応力が最大)になり、次のターンの足場になる瞬間なので、きちんと仕上げないと谷回りに入れない。深雪ではバランスを崩しやすいので、仕上げ(足場作り)は特に大切。階段を降りるときには、一段ごとに足裏をフラットな状態にして体のバランスを取りながら運動するが、足場を作りながらの運動要素はスキーと同じだと思う。

4.エッジング

  エッジングは、角付けと加圧によるスキーの操作のことですが、ズレも含まれると思います。ここでは、ズレによるスピードコントロールを考えます。簡単のためにフォールライン方向の運動を考えます。運動量の変化は力積に等しいので、雪面からの抗力をf、作用時間をΔtとすると、スキーヤーの受ける力積はf×Δtになります。谷回りではfは正なので加速運動になり、山回りではfが負になり減速運動になります。スピードをコントロールするには、谷回りでは加速を弱めるための、山回りでは減速を強めるためのエッジング操作が必要になります。重力による運動量の増加を抑えるため、谷回りの時間を短く、山回りの時間を長くする必要があります。運動量変化が一定のとき、雪面から受ける抗力fは、ズレの時間Δtを大きくすると小さくなり、逆に小さくするとそれは大きくなります。普段は、無意識のうちにズレの時間Δtを利用して力の調節を行っていると考えられます。

  深い雪や柔らかい雪では、雪からの抗力はスキー板の面で受けますが、硬い雪になると、エッジで受けることになるので、エッジングによるスキーコントロールがシビアになってきます。雪面から受ける抗力が面から線に変わることで、バランスがとりにくくなり、運動感覚の衰えた高齢者になるとアイスバーンは難しくなると思います。

5.新雪

  パウダースノーの魅力は、特別な浮遊感を体感出来ることです。圧雪バーンに比べてゆったりした動きになるので、筋力がないスロー動作の高齢者にとっては、パウダーは圧雪バーンより易しいと思います。圧雪バーンは平面運動ですが、新雪では上下運動が加わり3D運動になります。板を浮かせるには、柔らかくてセンター幅が広い板の方が有利ですが、高価なパウダー専用の板を購入しなくても、膝くらいの深さの新雪ならノーマルの板でもそれなりに楽しめると思います。スキーのトップが雪に潜りやすいので、加重点はかかとよりになります。後傾になりやすいので、足首を緊張させて足の甲を持ち上げる意識を持つことと、体は常にスキーの真上に保つことを心がけています。また足場が不安定になりやすく、バランスを取りにくいので、一つのターンをきちんと仕上げて、しっかりと足場を作ってから次のターンに入ることも心がけています。